塩害って、何ですか?
コンクリート構造物の耐久性を低下させる原因には、
○ 塩害
○ 中性化
○ アルカリ骨材反応
○ 化学的腐食
○ 疲労、凍害、その他
などがあります。
塩害は、飛来塩化物や海砂、凍結防止剤などによる塩分により、コンクリート中の鉄筋やPC鋼材が腐食する現象であり、コンクリート構造物の耐久性を著しく低下させる原因の一つです。
コンクリート構造物の鉄筋やPC鋼材は、骨格となる重要なものですから、構造物の耐荷力を低下させる深刻な劣化現象です。
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なぜ鉄は、錆びるのですか?
鉄は、鉄鉱石を多量のエネルギーを用いて精錬して人工的につくりだしたものです。
したがって、非常に不安定な状態にあり、もとの鉄鉱石に近い状態に戻ろうとします。
その鉄鉱石に戻ろうとする現象が”鉄が錆びる”、”腐食する”ということです。
鉄は腐食することで安定した状態となります。
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鉄筋は、コンクリートの中で
どのように保護されているのですか?
鉄は、自然界では不安定な状態にあることは先ほど説明しました。
それでは、そのような鉄をわれわれはどのように使っているのでしょうか?
鉄は空気中の酸素や水分を使って安定な状態、つまり腐食をおこします。
ですから、裸の鉄を使う場合には、鉄の表面をペンキで塗装して錆びないようにします。
コンクリート構造物では、コンクリートの中に鉄筋を埋め込むことで酸素や水分と直接に接しないようにしています。また、コンクリートの強いアルカリは、鉄筋の表面に不動態皮膜という保護膜を形成します。この保護膜は、コンクリート中に溶けている水や酸素から鉄筋をまもる役割をします。
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コンクリート中にある鉄筋が錆びると、どうなりますか?
コンクリート中にある鉄筋は、コンクリートと鉄筋表面に形成される不動態皮膜とういう保護膜により、腐食から保護されていることは説明しました。
しかし、塩分がコンクリートに浸透したり、コンクリートが中性化すると、鉄筋の腐食が始まります。
鉄筋が腐食すると、鉄筋表面には錆層(腐食生成物)が形成されます。これは、もとの体積の2倍以上に膨張する性質があり、コンクリートにひび割れを生じさせます。
ひび割れが発生すると、このひび割れを通して鉄筋に塩分や酸素、水といった腐食に必要な因子が供給されるため、腐食の速度が速くなり、かぶりを剥落させます。
かぶりが無くなった鉄筋は、裸の状態ですから、さらに腐食が進み、鉄筋自身が痩せ細っていきます。
鉄筋は、コンクリート構造物の骨格の役目ですから、鉄筋が痩せ細ると耐荷力が急激に減少する危険な状態になります。
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塩分があると、鉄筋はなぜ錆びやすくなるのですか?
コンクリートの中にある鉄筋は、コンクリートという保護体と不動態皮膜という保護膜の二つでまもられています。したがって、直接外気に接することがないため、安定な状態、つまり腐食を起こすことはないと考えられてきました。
しかし、海風をうけるコンクリート構造物や凍結防止剤が散布されるコンクリート構造物では、コンクリート中に塩分が浸透し、この塩分が鉄筋表面に到達すると不動態皮膜という保護膜を簡単に破壊してしまいます。
この保護膜が破壊された部分では、コンクリート中にある水や空気と反応して腐食が始まります。
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コンクリートが中性化すると、鉄筋は錆びやすくなるのは、
なぜですか?
コンクリートの中にある鉄筋は、コンクリートという保護体と不動態皮膜という保護膜の二つでまもられています。したがって、直接外気に接することがないため、安定な状態、つまり腐食を起こすことはないと考えられてきました。
不動態皮膜という保護膜は、コンクリートがアルカリ性にある環境で形成されます。
しかし、コンクリート中に二酸化炭素(CO2)が浸透するとコンクリートが中性化します。鉄筋表面までコンクリートが中性化すると保護膜を簡単に破壊してしまいます。
この保護膜が破壊された部分では、コンクリート中にある水や空気と反応して腐食が始まります。
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錆びるということは、電池ができることなのですか?
下の図は、中学校の理科の時間に学習したボルタ電池です。
銅(Cu)は、安定した金属です。一方、亜鉛(Zn)は、鉄と同様に人間が人工的に精錬した不安定な金属です。
この二つの金属を希硫酸につけ、豆電球をリード線で接続すると豆電球が光ります。なぜでしょうか?
これは、亜鉛が希硫酸中で安定しようと溶け出し、イオンに変化します。このとき、イオンとなることで電子が亜鉛から豆電球を通して銅に移動することで豆電球が光ります。この亜鉛が溶け出しイオンとなることは、亜鉛が安定した状態に戻ろうとすること、すなわち錆びるということです。
この錆びるということは、電子の流れつまり電流ができることなのです。
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鉄筋が錆びるときも、電池ができるのですか?
コンクリート中の鉄筋は、不動態皮膜という保護膜で保護されていますが、塩分はこの保護膜を破壊してしまいます。
この保護膜が破壊された部分では、鉄が安定した状態に戻ろうとする反応、つまり錆びが始まります。
さきほどのボルタ電池の亜鉛と同じように、鉄が錆びる部分は、鉄がイオンとしてコンクリート中に溶け出します。一方、保護膜で保護された部分の鉄筋は健全な状態にあります。ボルタ電池の銅と同じです。
したがって、鉄筋の腐食はボルタ電池と同じように、塩分により不動態皮膜の保護膜が破壊された部分(アノード部)と保護膜で覆われた健全な部分(カソード部)で電池が形成され、電流の流れにより腐食が進行していきます。
この電池のことを腐食電池、電流を腐食電流と呼んでいます。
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電流の流れは、なぜ起こるのですか?
鉄筋の腐食は、鉄筋表面に電池(腐食電池)が形成され、そこに電流(腐食電流)が流れることで進行することは説明しました。
それでは、なぜ、このような電流の流れが生じるのでしょうか?
塩分で保護膜が破壊された部分(腐食部)では、鉄がイオン化することで電子が鉄筋中に残されるため、保護膜で保護された部分(健全部)に比べ、電位が低くなります。この電位の高低差が生じると、鉄筋内部では腐食部から健全部にバランスをとるために電子の流れが生じます。電子の流れと逆向きが電流の流れですから、コンクリートを介して腐食部から健全部に電流が流れるのです。
この電位の高低差は、腐食の進行速度であり、高低差が大きいほど、腐食は急激に進行します。
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電気防食は、なぜ鉄筋の腐食を停止できるのですか?
鉄筋表面の電位の高低差により腐食電流が流れることは説明しました。
この電位の高低差がなくなれば腐食電流が流れなくなり、腐食は停止します。
このように、腐食電流を消滅させるのが電気防食です。
コンクリート構造物の表面に陽極を設置し、鉄筋やPC 鋼材を陰極にして直流の電流、すなわち防食電流を流します。防食電流は、腐食していない健全な部分(電位の高い部分)に流れ、その部分の電位が下がります。これは、防食電流を流すことにより、電子の少ない部分(健全な部分)に電子が供給されるためです。防食電流を増加させていくと、やがて腐食した部分と同じレベルまで電位が下がり、電位の高低差はなくなり、腐食電流が消滅します。
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電気防食は、なぜ電位の高低差をなくすることが
できるのですか?
鉄筋の腐食は、鉄筋表面に電池(腐食電池)が形成され、そこに電流(腐食電流)が流れることで進行すること、また、電流は鉄筋表面の電位の高低差により生じることも説明しました。
電位の高低差は、鉄筋が錆びることで生じた電子のアンバランスです。
電気防食では、コンクリート構造物の表面に陽極を設置し、鉄筋やPC 鋼材を陰極にして直流の電流、すなわち防食電流を流します。この防食電流により、陰極である鉄筋やPC鋼材に電子が供給されます。
これにより、鉄筋やPC 鋼材に十分電子が供給され、電位の高低差がなくなり、腐食の進行を抑制できるのです。
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電気防食に必要な電気は、どのくらいですか?
腐食電流を消滅させるために流す防食電流は、これまでの施工実績から、概ね1 ㎡当たり10 ~ 30 mA 程度です。この時の通電電圧は、2 ~5V 程度となります。
電気防食の施工面積を1000 ㎡とすれば、
最大で電流量は、30mA ×1000 ㎡=30A 、電圧は 5V
最小で電流量は、10mA ×1000 ㎡=10A 、電圧は 2V
となります。
これより使用電力を計算すると、W(電力)=I(電流)×V(電圧)となるので
最大 30A ×5V =150W
最小 10A ×2V = 20W
となり、1000 ㎡当たり最大でも白熱電球1個程度の電力で十分防食が可能です。
白熱電球1個程度の、非常に微弱な電流で防食できるのです。
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電気防食が信頼性の高い防食方法と言われているのは、
なぜですか?
これまでの塩害防止方法としては、腐食の因子の一つである塩分の侵入を防いだり、既に侵入した塩分を除去する方法が用いられてきました。
しかし、塩分は腐食の因子の一つにすぎません。このような塩害防止方法では、腐食の反応を停止させていませんから、せっかく補修しても、再び塩害を引き起こす可能性もあります。
電気防食は、外部から防食電流を供給することで、電位の高低差、すなわち腐食電流を消滅させる方法です。これは、腐食反応自身を消滅させる方法であるため、最も信頼性の高い塩害防食方法です。
非常に微弱な防食電流を通電するだけで良いのです。
塩分の侵入を防いだり、塩分を含むコンクリートをはつりとることは、一切不要です。
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